教えて!乳がんのこと 

母親を亡くすことはない安心

アンジーについての見解/(豊川市民病院乳腺外科部長/柄松章司)

2013/10/07

柄松章司先生

質問/アンジェリーナ・ジョリーのとった行動について、どう思われますか。(豊川市八幡町、T・Uさん)

 回答/アンジーが38歳で予防的乳房切除を受けたのは、乳がんや卵巣がんの発生を抑える遺伝子BRCA1に異常があると判明したためです。この遺伝子に異常があると、高率に乳がん(80%以上)、卵巣がん(50%)が発生し、彼女の家系では祖母が卵巣がん、叔母が乳がん、母が乳がんと卵巣がんを併発して亡くなっています。

 彼女が手術を選んだのは、6人の子供(実子2人、養子4人)に「あなたたちは乳がんで母親を亡くすことはないから安心して」と言えるからというのが理由でした。
 BRCA2という遺伝子に異常がある場合でも同様で、米国のガイドラインでは予防的乳房切除が乳がんの発生を予防すること、出産の完了に伴って35~40歳の間に予防的卵巣卵管切除を勧めることが記されています。米国ではBRCA1/2遺伝子検査を受けた人は、100万人近くにのぼり、陽性となった人の約1/3が予防的手術に踏み切っていることから、米国では一般的に受け入れられている治療なのです。

 私自身10年以上前に、予防的乳房切除の論文を読んで健康な臓器を切り取るということに驚きました。BRCA1の異常で発生する乳がんは、通常より若い年代で両側に発生し、薬物が効きにくく、再発しやすいという特徴があります。私も検査はしていませんがBRCA1の異常であろうという人を治療した際に、薬剤がまったく効かず悔しい思いをしたことがあります。

 BRCA1/2遺伝子検査は、米国の一企業が独占的実施権を持ち、日本でこの検査を受けるだけで30万円かかります。遺伝子異常が判明した場合の日本での対応は、現時点で予防的卵巣卵管切除が数施設で、予防的乳房切除が1施設で行われていますが、今後増えていくでしょう。ただ保険適応にはならないため、予防的乳房切除と乳房再建手術を行った場合には、自己負担で200万円かかります。

 一方で、健康な臓器にメスを入れることを拒否される人もいます。そういう場合には、予防的にノルバデックス(ホルモン剤)を数年間内服することにより、乳がんの発生リスクを減らす方法があります。また予防的措置をとりたくない人は、若い時(25歳)から1年に1回検診(マンモグラフィ、超音波、時にMRI)を受けて早期に乳がんを発見するという方法もあります。

 乳がんは現在、女性ホルモンの感受性やHER2蛋白の有無、悪性度により治療法別に5つのタイプに分けられています。もし、遺伝性乳がんと判明した場合、高率に乳がんができますので、難治性の乳がんが発生する前に、がんの発生母地をなくしてしまうのは究極の治療であるとも考えられます。

2013/10/07 のニュース

柄松章司先生

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