風針

 市役所で刃物を持った男が暴れている。訓練とはいえ、不審者役の警察官の迫真の演技に、緊迫感が高まる。

 男は生活保護費を前倒しして支給しろと要求する。「このままでは年が越せない」「死ねということか」と絶叫。人質に刃物を突きつける。職員たちは刺股を持って男を取り囲み、一人はなだめ役に回る。

 当然といえば当然だが、訓練に台本はない。しかし説得役の職員は「落ち着いて」「ここにお金はありません」と弁舌滑らかだ。後で聞くと、言い慣れたせりふだという。

 だからといって、このように暴れるのはごく一部で、多くはつましく懸命に生きている人たちだという。

 訓練は、警察に男を引き渡して終わった。だが物価高が加速し、コメの高止まりが続く中、「年が越せない」と追い詰められている人は実際にいるはずだ。どうか自暴自棄にならないでほしい。行政や支援団体を頼ることは、甘えでも、最後の手段でもない。生きるための正当な選択だ。

有料会員募集

今日の誌面

有料会員募集

きらり東三河サイト

高校生のための東三河企業情報サイト

連載コーナー

ピックアップ

Copyright © TONICHI NEWS. All rights reserved.

PAGE TOP