民俗学者・武井正弘は「花祭の世界」(77年、名著出版)で奥三河を中心とする天竜川水系の湯立神楽を、延年系神楽として位置付けた。
延年に取り込まれた呪師(じゅし)芸・散楽・猿楽・舞楽・白拍子舞・神楽・田楽といったさまざまな要素が、呪師・遊僧の修験化によって民間に広まったとする。
三河の花祭りを伝承する地域は、中世期には南朝方の荘園に組み込まれていたが、山深いこの地に祭礼文化をもたらしたのは熊野から諏訪に向かう修験と鳳来寺山を基地とする真言系道場の宗教者たちであった。
古戸で伝承される「白山まつり」からうかがえるような白山信仰、伊勢の御師についてもその影響を考えるべきだとしている。
久保田裕道は「『中日本』芸能分布圏における地域設定のための試論」(「中日本民俗論」岩田書院)で花祭における神招きで最も特徴的であるのは、「きるめ」と呼ばれる神を招く儀礼である―とし、熊野系修験の影響を考察している。
