地域スポーツ企画「とにすぽ」
さまざまな経験糧に「魂の走り」期待
2025/01/13
鈴木亜由子「最後の挑戦」が始まる
鈴木亜由子(日本郵政グループ)にとって、集大成の1年が始まった。彼女が視線の先に捉えているのは、今秋に開かれる大舞台。9月13日から聖地・国立競技場で、約210の国・地域からトップアスリートが参加する世界最大級スポーツイベント「世界陸上」が開催される。日本陸上界の先頭を走り続け、33歳を迎えてベテランの域に差し掛かった彼女の「魂の走り」を見逃すことはできない。
◆世界と戦う
世界に「鈴木亜由子」の名が知れ渡ったのは、2015年に中国・北京で開催された世界陸上。自身初の大舞台となる女子5000メートルで決勝に進出、入賞までわずか0・29秒差の9位と大健闘した。
2016年のリオ五輪は、鈴木にとってほろ苦い五輪デビューとなった。左足の違和感で女子1万メートルを欠場、無理を押して出場した女子5000㍍は無念の予選敗退に終わった。世界の壁を肌で感じた鈴木は悔し涙をこらえながら最後まで気丈に振る舞い、4年後の東京五輪へ気持ちを新たにした。
◆マラソン転向
2017年の世界陸上は女子1万メートルで10位、世界と互角に戦えることを改めて示した。ただ、ロンドンでの激走をきっかけに、鈴木は競技種目をマラソンへと転向する。自身初のフルマラソンとなった2018年の北海道マラソンで優勝を飾ると、翌年は東京五輪・代表選考レースのマラソン・グランド・チャンピオンシップ(MGC)で2位と力走した。
コロナ禍の開催延期を経て、29歳で迎えた東京五輪。マラソン開催地が北海道へ急きょ変更されるなどドタバタの中で、地元の期待を背負い異例の猛暑で苦しいレースとなったが、粘り強くトップを追走して19位でフィニッシュした。
◆パリへの思い
特別な思いで挑んだ東京五輪は不完全燃焼。次の目標は3年後のパリ五輪に決まった。だが、陸上競技の集大成に位置付けた2023年のMGCは、思い掛けない展開に翻弄(ほんろう)された。激しい雨と底冷えの寒さが彼女の力を奪い去り、失意の12位で終えると降りしきる雨の中でフィニッシュラインをぼうぜんと見つめた。
パリ五輪への最後の望みを託した名古屋ウィメンズマラソンは「すべてを出し尽くした」が、目標に掲げた日本記録に及ばず。第一線で結果を出せない鈴木亜由子の「限界説」もささやかれ始めていた。
◆最後の挑戦
2025年。彼女の挑戦は、2月の東京マラソンあるいは3月の名古屋ウィメンズマラソンで始まりそうだ。今年最大の注目レースは、10年前に世界と互角の勝負を繰り広げた「世界陸上」への再挑戦になる。挫折と復活を繰り返しさまざまな経験を積み、あの頃と見える景色は大きく変わった。それでも、地元・東三河から鈴木亜由子の背中を押す応援の力は変わらない。彼女の長く短い陸上競技人生「最後の挑戦」が始まっている。
豊城中学校で中学日本一となり、時習館高校や名古屋大学でも輝かしい成績を残し、日本郵政グループで世界に挑戦した鈴木亜由子の主な戦歴を紹介する。
◆プロフィル
鈴木亜由子(すずきあゆこ)
1991年10月8日生まれ(33歳)豊橋市出身。身長154㌢、体重40㌔。八町小学校→豊城中学校→時習館高校→名古屋大学→日本郵政グループ。
◆主な出場歴
豊城中学校=全日本中学校陸上選手権女子800メートル・同1500メートル優勝、全国女子駅伝区間賞▽時習館高校=インターハイ女子3000メートル8位入賞▽名古屋大学=世界ジュニア陸上選手権女子5000㍍5位入賞、日本インターカレッジ女子5000メートル優勝、夏季ユニバーシアード女子1万メートル金メダル・同5000メートル銀メダル▽日本郵政G=世界陸上選手権女子5000メートル9位、日本陸上選手権女子1万メートル優勝、リオ五輪女子5000メートル予選敗退、世界陸上選手権女子1万メートル10位【フルマラソン出場歴】北海道マラソン優勝、MGC(2019)2位、東京五輪女子マラソン19位、ベルリンマラソン8位、MGC(2023)12位、名古屋ウィメンズマラソン(2023)2位、名古屋ウィメンズマラソン(2024)3位
◆自己記録
1500メートル=4分18秒75▽3000㍍=8分58秒08▽5000メートル=15分08秒29▽1万メートル=31分18秒16▽ハーフマラソン=1時間7分55秒▽フルマラソン=2時間21分33秒