豊川海軍工廠4つの物語

豊橋市のライター住田さんが初の小説出版

2017/07/08

 1945年8月7日、米軍の爆撃によって豊川海軍工廠で働く2500人以上の尊い命が犠牲となった。あの日を目前に控えた22日、地元女性の小説家初デビューとなる、工廠を題材に描いた小説「ハイネさん 豊川海軍工廠をめぐる4つの物語」(これから出版)が刊行される。収められた短編小説は空襲よりも前の時代から、戦後、70年代の高度成長期、そして天皇退位にゆれる現代までを結び、人々の日常と戦争の悲惨さを今に語り継ぐ役割を果たしている。

 著者は豊橋市柱一番町に住むライターの住田真理子さん(56)だ。住田さんは兵庫県生まれ。2度にわたり芥川賞候補に選ばれた小説家、木辺弘児(本名・住田春幹)を父に持ち、本人も高校時代は文芸部、甲南大学文学部に進むと文芸サークルに所属し、ノンフィクション小説などを執筆して同人誌で発表するなど活動。在学中に阪急電鉄の構内に置く冊子を作る仕事に携わるようになり、卒業後もフリーライターとして活躍した。そんな住田さんに転機が訪れたのは1995年の阪神淡路大震災。結婚して2児の母だった住田さんは、西宮市のマンションで被災。運よく助かったものの、「ここで子育てはしんどい。のんびり暮らしたい」と、翌年には大手学習塾の講師をする夫が単身赴任で訪れていた豊橋市に移住した。

 地元印刷物の執筆をする傍ら、2009年には文学賞受賞者を多く輩出している大阪文学学校に入学。通信教育とスクリーニングで腕を磨いた。そんな折、たまたま誘われて出かけるようになった海軍工廠跡地見学会から工廠への関心が深まり、生存者や関係者などとの出会いも重なって戦後70年目の15年に工廠をめぐる物語を書き始めた。今年の3月までに4作を創作。書籍の出版が決まった。

 内容は証言や資料など事実をもとにしたノンフィクション。実在の地名や出来事などがちりばめられた4つの作品は、それぞれが全く違った切り口。戦争体験記とは全く異なり文学色が前面に出た、それでいて戦争のむごたらしさをストレートに表現した秀作ばかりだ。

 『わたしの最初のお友だち、それは本だった』で始まる表題作「ハイネさん」は、主人公の波子が東京から疎開してきた拝音(はいね)さんと過ごした日々を描いた優しく切ない1編。「赤塚山のチョンス」は、爆撃のどさくさに紛れて工廠から逃げ出し、赤塚山に隠れていたという逸話がある朝鮮人徴用工の終戦を描いた。3編目の「太陽の塔」は70年の大阪万博のシンボルだった太陽の塔と戦争のトラウマが結びついた作品。そして最後の「杭を立てるひと」は、生存者とその家族の今の物語だ。生存者の子どもたちが、孫たちが、歴史を語り継ぐことの大切さを感じさせる作品になっている。全ての物語は結末を完結させず、読者にその先を考えさせて終わる。

 「地域に住む人が、その土地の歴史を掘り起こす作業をするべきだと思った。これを広島の原爆に置き換えた物語にしては意味がない。近くにある現場に足を運んで、感じて書くことが大切」と住田さんは海軍工廠を題材に選んだ理由を話した。

 書籍は四六判、192㌻。表紙は同出版のデザイナー古池ももさん(33)が担当。「リアルタイムでその時代の人が見た景色を描きたかった」と古池さん。「ハイネさん」を題材に当時の豊橋市向山町をイメージした温かな明るい描写が印象的だ。

 価格は税別1400円。市内各書店で販売する。問い合わせは、これから出版=電話0532(47)0509=へ。

2017/07/08 のニュース

著者の住田真理子さん(これから出版で)

小説「ハイネさん 豊川海軍工廠をめぐる4つの物語」

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