今年度退職 渥美農高・鈴木修市校長が最後の卒業式で
2025/02/18
最後となる卒業式で、「農業は社会貢献。人に幸せを呼ぶ産業」と呼びかける鈴木校長(渥美農業高校で)
日本有数の農業生産地の膝元にある田原市の愛知県立渥美農業高校の鈴木修市校長(60)は3月、母校で最後となる卒業式で「農業は社会貢献。人に幸せを呼ぶ産業である」と呼びかける。担い手の育成を目指し教員になり農業の魅力を伝えてきたが、教えた息子、孫世代の就農者は落ち込む一方。厳しい状況の中で、月末に38年の教員生活に別れを告げるが、卒業生はこの言葉の重みをどう受け止めるだろうか―。
■農業はもうかる
鈴木校長は、教員生活38年のうち2008年から4年間を渥美農高教員、19年の教頭を経て校長に。1980年から3年間、生徒として学んだのを含めると、これまでの人生の約3分の1を農高に関わっている計算だ。
高校生のころ、渥美半島では農産物の販売額が1000万円を超える農家は少なくなく、「8桁(けた)農家」ともてはやされた。自らも豊橋市老津町で畑約4㌶を営む農家の長男で卒業後、継ぐ予定だった。しかし、農業の面白さを知り農業大学に進み、教えることで農業の発展につながると教員を選んだが、卒業生の70%前後は「農業はもうかる」と農業に進んだ。
教員として赴任した時は、30%台に落ち込んでいた。植物工場やバイオテクノロジーなどを導入した最新の農業を息子世代の生徒に紹介し、「農業を支えてほしい」と就農アップに努めた。しかし、きつい、汚い、危険の「3K」とも言われる農業を後継させたくない親もおり、かなわなかった。
「せめて30%台に」―。教頭、校長時代は農業で活躍する農高OBらを講師に起業家教育、開放された農場で収穫体験や直売を楽しむオープンファームなどに孫世代の生徒を参加させ、農業の大切さを教えた。だが、高い給料や福利厚生が充実した就職先に流れ、10%台と就農者の農業離れが加速する。コロナ禍で売り上げが激減、ロシアのウクライナへの軍事侵攻や中東情勢の影響で経費も高騰し、孫世代には「農業はもうからない」と映っているようだ。
一方、教え子がいったん就職したものの数年後に古里に戻り、農業を継いだとの知らせを時々聞いた。全国の高校生が育てた和牛の肉質を競う「和牛甲子園」で、現役も頑張り農業クラブの動物科学部が「総合日本一」に輝いた。「うれしい限り」とたたえた。後輩の同僚に向け「農業の問題を一つ一つ解決し、もうかる農業にする必要がある。検討してほしい」と課題を託す。
■農業支える
田原市は農業産出額が全国2位だが、2014年から5年間トップを走っていた。3日の卒業式で、卒業生に農業の社会貢献を強調するとともに、「田原は日本の農業を支えているといっても過言ではない。今一度、これからの渥美半島の農業を考えてほしい」と訴えるつもりだ。