時重ねなければ見えぬ景色一冊に/田原の元教員 小川悟さんが手記出版/「物の見え方 心の捉え方考えるきっかけに」
2026/08/26

出版された手記『幻の花』と筆者の小川さん(田原市の自宅で)
数十年に一度だけ、花を付けて生涯を終えるリュウゼツランを自分にたとえ、その心模様を表した手記『渥美半島 幻の花』が、出版された。著者は田原市加治町の元教員小川悟さん(72)。目で見つめ、心で捉える景色が若いころと変わり、時を経なければならないものや、感じられないものを書き留めてまとめた。「物の見え方や心の捉え方を考えるきっかけになれば」としている。この中から代表作5点を紹介する。
■ただの人と実感
小川さんは、地元の中学校の校長を最後に38年間の教育生活を終えた。「地域や保護者、子ども思いの校長」と思い込んでいたが、地元の自治会や校区の仕事に携わった時、大半の人が気に留めず、「ただの人」と実感、落ち込んでいた。
102歳で亡くなった作家・佐藤愛子さんの『晩鐘』を亡くなる前に読み、「『かく生きた』という事実があればよいのではないか」と教えられ、一つの言葉から救われた。
「レッドカード」―。初めて小学校の校長になり、高学年と低学年が一緒にドッジボールを楽しむ光景を見ていて、人気漫画『ドラえもん』に登場する「ジャイアン」のイメージの上級生が下級生に強いボールを投げ、周りの子どもたちが叫んだ。すると、その上級生はわざとボールに当たり、反省の念を示した。小規模校の良き「伝統」のように感じた。
「99・9%以上の人は夢を達成できない。夢よりも希望を持つことが大事ではないか」―。ある中学校で陸上競技の顧問をしていた時、選手と全国大会優勝を目指したが、実現できなかった経験を踏まえての教訓だ。
また、ゴッホの代表作の一つ『星月夜』。高校生の時は、特徴的な渦巻きに「何でこんなのが良いのか」と思った。最近になって「表したかったのはこれだったのだ」と一変した。
最後にロウバイやスイセン、キンモクセイを取り上げ、「匂いと感情は連動しているらしい」と物思いにふけ、「香(こう)をたくとしようか」で結んだ。
■お年寄り元気に
手記は、4項目で45編162㌻からなる。「時来たる」で、その時を迎えた心境が語られ、「景色が変わる」では、変わって見える景色の数々が紹介される。「夢か現(うつつ)か幻か」で、過去から現在に至るまでのあやふやになってしまった時空をさまよい、「花開く」で目の前にある世界に向かうという設定で編集された。表紙の絵は、元教員の藤城信幸さんが描き、題字は三河書芸会の権田拓朗会長が書いた。
小川さんは「時を重ねなければ見えぬ景色がある。お年寄りが元気を取り戻す。若い人たちがちょっとのぞいてみたくなる本になれば幸い」と話している。
税抜きで1000円。豊橋市や田原市などの書店で販売中。インターネット通販のアマゾンでも取り扱っている。