教えて!乳がんのこと
読者からの質疑応答=(成田記念病院形成外科部長/藤井勝善)
2013/10/18
藤井勝善先生
質問/乳房再建のメリット、デメリットは何ですか。(田原市、F・Hさんより)
回答/乳がんの手術などで失われた、または変形した乳房の回復を目ざすのが乳房再建手術です。女性の象徴である乳房を取り戻すことで、肉体的な外観の改善のみならず、精神的な面においても、その後の人生を充実させることができるようになります。 しかし、乳房再建をするためには、乳がん手術後、再度身体にメスを入れる必要があり、医療費も余計にかかります。
ここでは、手術方法や手術時期の違いによるメリットとデメリットについてそれぞれ説明します。
乳房再建の方法には、人工物(乳房プロテーゼやインプラント等)を利用するものと、自分の組織(脂肪、筋肉や皮膚の血流を保って移植する場合と脂肪を注射で移植する場合など)を使用ものの2種類があります。
人工物の利用での長所は、身体の他の部位にまったく傷をつけないで再建が可能、手術侵襲は小さく短時間で済む、プロテーゼの形状が種々あり、反対側の乳房に合致させやすい、以前に比べ製品の質・安全性の向上がめざましいなどです。一方、短所は感染を起こした際は除去する必要がある、特にプロテーゼ周囲が硬くなる(カプセル拘縮)、下垂した乳房は再建しにくい、プロテーゼの経年変化の問題(数年から10数年で入れ替えが必要)などがあります。
血流を維持し、自分の組織を使用方法の利点は、自分自身の組織であるという安心感や人工物を利用する際の短所がないということなどです。欠点は、身体の他の部位(腹部や背部など)に組織採取に伴う傷跡が残る、手術の負担がやや大きく、まれに輸血が必要になる、血流不全が発生すると組織が生着しない可能性があることなどです。自分の脂肪注射による再建は、乳がんの縮小手術で多くなってきた胸部の小さい陥凹や欠損の修復に効果的です。
最近の再生医療の技術で脂肪幹細胞と脂肪を併用移植することで、安全かつ確実に脂肪注入ができるようになりました。脂肪採取を行う大腿や腹部もスマートになり、まさに女性にとっては一石二鳥の効果があります。ただ残念なことに、この方法は保険適応ではありません。また行える施設も限られており、今後さらなる普及が望まれます。
再建手術の時期は、乳がん手術の根治性や後療法(化学療法や放射線療法など)を考慮して決定します。乳がん切除と同時に再建(一次再建)を行えば、乳房の喪失感を味わうことなく社会復帰することができます。しかし、同時再建手術では身体への手術負担が増加し、合併症(出血、血腫や感染など)の発生がやや高いと考えられます。後療法の放射線療法や再発がんの切除手術などで再建乳房が変形する可能性もあります。がんの再発がなく傷跡が落ち着いてから行う再建(二次再建)では、手術回数としては余分に増えることになりますが、一次再建の不利な点を解消することができます。
今年になり、乳腺外科医(乳がん治療)と形成外科医(乳房再建)の合同学会が日本に発足しました。乳がん治療の根治性と再建乳房の美容性を両立させることを目的とした新しい診療体系です。一見、相反するような乳がん治療と乳房再建を同時に考えることは何ら特別なことではなくなり、広く一般的なこととなっていくことでしょう。