教えて!乳がんのこと 

根治のための抗がん剤治療

読者からの質疑応答=(光生会病院・副院長/山口俊介)

2013/10/21

山口俊介先生

質問/抗がん剤治療のことを知りたいです。効能などいつまで効くのでしょうか。(蒲郡市、K・Mさんより)

回答/乳がんは乳腺内の腫瘤(しゅりゅう)が小さなうちから全身に転移する可能性があります。さらに、乳がんで命を落とすのはその転移した臓器の傷害によります。従って、乳がんは「全身病」であるとの考えにより、早くから薬物療法が進歩してきたがんの1つです。手術と放射線療法が局所治療であるのに対して、薬物療法は全身に対する治療です。ここでは薬物療法のうち、ホルモン療法と、分子標的治療を除いた抗がん剤治療、すなわち細胞障害性薬剤を用いた治療についてお話をします。

 細胞障害性薬剤はその名の通り、すべての細胞を傷害します。細胞分裂が起きる瞬間に細胞を死滅させるため、分裂しているがん細胞だけでなく正常な血液細胞や皮膚、小腸の粘膜の細胞も傷害されます。そして、なんと分裂を休止しているがん細胞には効果がありません。治療の有効率はせいぜい50~60%なのに対して、副作用はほぼ100%出現します。このことが治療を複雑にしています。

 抗がん剤治療の目的には2つあります。1つは根治治療です。目に見える範囲は局所治療で処理し、目に見えない微小転移を薬物で根絶し、転移が出現しないようにするのです。がんが不運にも再発した場合、根治する可能性は残念ながら非常に低くなります。この時の治療は苦痛症状を取り、少しでも延命するための治療であり、焦りは禁物です。

 根治治療としては、術後補助化学療法と術前化学療法があります。必要以上に副作用を恐れて年齢や体力への考慮から薬物使用量を減らすのは良くありません。あくまでも根治が目的なので、十分な薬物を使用し、すべての知識を使って副作用を抑えるのです。術前化学療法には、乳房温存の可能性を広げ、効果のある薬物をスクリーニングするという目的もあります。反対に再発の治療はどんなに家族や本人が望んでも、治療によって命の質が落ちる事があってはなりません。また、さまざまな薬物を試す時間もあまりないのです。

 薬物療法の目的を明確にし、複雑な治療を勇気を持って続けるためには、本当に信頼できる医療関係者(医師、認定看護師)との共同作業が必要です。最新の知識を使って、どんなことでも話し合いながらあなたにあった治療法を一緒に決めていくのです。

 術前化学療法は、術後化学療法と比べて、再発を抑制する効果に差はありません。むしろ乳房温存の可能性を広げ、効果のある薬物を選べるという点で、大きなメリットがあります。効果とがんのタイプによっては、その後に手術をしない選択や、切除の代わりに放射線照射にする選択も今後は増えていくと思います。 乳がんが見つかっても決して手術を焦らないでください。術前化学療法はもっと広まって良いと思います。

 副作用は避けては通れません。嘔吐(おうと)や吐き気は適切な治療補助薬の使用でほぼ100%抑えられます。脱毛はまったく抑えられませんが、治療が終われば必ず戻ってきます。過敏にならないで、一緒に恐怖に打ち勝ちましょう。そして治療が1クール終わるごとに、頑張った自分にごほうびを。

2013/10/21 のニュース

山口俊介先生

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