王子のジュークボックス
【I Am You】
2026/09/13

プリンスの未発表曲10曲をまとめたアルバム「タイムレス」が先月末にリリースされた。録音された年代順に収録されているので、1曲目を飾るこの曲は1977年の作品で最も古い。デビューアルバムに向けた制作過程で生まれたものだろう。
速いテンポで途切れることのない正確なギターカッティングが全体のムードを決めている。伸びのあるファルセットで歌われるのは、離れていった恋人への未練たらたらな独白。各楽器が有機的なアンサンブルを聴かせる後半のパートは、すべての楽器を一人で演奏できる己の技量を見せつけているようでもある。
注目してほしいのはサビのあとにぼそっとつぶやく「行かないで」の弱弱しさ。めそめそしていると言ってもいい。これが、精いっぱいカッコつけたい20歳前後の若造の表現とは信じがたい。
プリンスは生涯、自分自身であり続けることに拘っていたアーティストだ。普通なら隠しておきたい女々しい自分も、音楽の中では堂々とさらけ出してしまう。ごく初期の楽曲であっても、その点にブレは無かったことが確認できた意義は大きい。
それにしてもこの楽曲の完成度は何なのだ。メロディも良い、演奏にほつれもない、十分に魅力的な楽曲だ。今聴いても何故リリースされなかったのか理解に苦しむ。
プリンスの音楽にはこんなワクワクするような謎がいくつも仕掛けられている。
(自称プリンス学芸員 ひろあつ)
※次回10月12日付掲載予定。