この人に聞く 

「バカロレアは原点回帰だ」

【第17回】牧野昌子・時習館高校長

2026/09/28

 時習館高校は今年4月、附属中学校を新設して中高一貫校となる初年度を迎え、国際バカロレア(IB)=国際的な大学入学資格を認定する教育プログラム=の認定に向けた準備を本格化させている。単位制・二学期制への移行も進み、教職員はその教育理念を学ぶ研修を重ねる中、新校長として着任したのが牧野昌子時習館高校長(57)である。

 牧野氏は西三河の幸田町出身。教員としての一歩は、豊田市内の新設校・豊田南高校で踏み出し、そこで学校が組織として動く仕組みを学んだ。続く知立東高校には長く勤務した。同校は当時、真面目な生徒が多く通う学校で、教員が手をかけるほど生徒が伸びていく姿を目の当たりにした。高校時代にそこまで手厚い指導を受けた経験がなかった牧野氏にとって、この経験は今の教育観の原点になっているという。その後、愛知県総合教育センターで教育相談室長として教育相談を担当し、刈谷東高校なども経験した。直前の任地である豊野高校では「フレキシブルハイスクール」への転換に携わった。定年までの最後の3年間を過ごす任地としてこの春、初めて東三河に赴任した。

 生徒が自ら学びの種を見つけて取り組む自由な校風を持ち、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の取り組みや国際交流、総合的な探究の時間など独自の実績を積んできた時習館高校。大学合格実績が重視される以前は、浪人も選択肢の一つとして受け止められるほど生徒の自主性を尊重する校風で知られ、牧野氏自身もこの校風を失わせたくないとの思いを強く持つ。IBの導入も全く新しい挑戦ではなく、元々の校風の延長線上にあるものと位置づけ、「自由な校風と、たまたま国際バカロレアの学びが一致したというだけ」と言い切る。

 大学合格実績を最終目標とはしない。牧野氏は「大学がゴールではないと思います。自分がどうやって生きていくかということです」と述べる。進路指導でも、共通テストの点数から機械的に大学を勧めるのではなく、「どういうことをしたい人になりたいの」という問いから入る。関心のある学問分野や、憧れる教員の存在といった手がかりから、生徒それぞれが本当に学びたい大学を見つけていく過程そのものを、探究のひとつと捉えているという。

 教員生活の出発点には、極限状況の中でも人間が生きる意味を見いだす姿を描いたヴィクトール・フランクルの著作『夜と霧』があるという。答えの出ない事態に耐え続ける「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉を好み、「答えや結論が出ない事態に、ずっと耐え続ける力が、今の人間には必要だと思います」と強調する。将来の正解を誰も描けない時代だからこそ、生徒には教員の想定を超えて自らの物語を紡いでいってほしいと願う。

 知立東高校で得た手応えと、生徒一人ひとりに向き合う進路指導への信念を携え、牧野氏はバカロレアの軌道づくりを見届けた先に定年を見据える。伝統と新機軸を結びつけながら、生徒が自らの意思で人生を選び取れる学校づくりを、着実に進めている。
                   ※次回は10月5日付掲載予定。

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