認知症に寛容な社会へ

【視点】各地で居場所づくりや支援活動

2017/01/16

サポーター講座を受ける大木家の社員

 企業や高齢者施設で、認知症のある人の社会参加を促す取り組みが進んでいる。パチンコ店では、社員が認知症への理解を深める講座を受講。症状のある高齢者の居場所づくりに努めている。認知症の高齢者を受け入れる施設では、美化活動などを通じて地域社会に参加。高齢者の自尊心を高め、介護家族の負担軽減や市民へ認知症に対する理解を深める活動に励んでいる。

 ■誰でも来店できる店づくり
 「トラブルを起こす人を除外するのではなく、認知症かもと考えるだけで対応や心構えは変わる」と話すのは、「大木家」(本社=豊橋市、大木伸浩社長)の人間力開発チームの田中健次主任。パチンコ店や飲食店などを経営するオーギヤグループは「誰でも安心して遊べる店作り」を理念に掲げて従業員教育を徹底。2012年7月から豊橋市が主催する「認知症サポーター養成講座」を従業員が受講し、認知症のある市民を受け入れる体制を整えている。

 グループは現在、パチンコ店21店舗を経営。店には他の客の台を触る人や、自分の席を忘れて店内で迷子になる高齢者など、認知症とみられる来店客がトラブルになる事例が報告されていた。

 グループは14年から、社内講師5人を設けて自社で養成講座を開催。15年には認知症だけではなく、障害者なども気軽に来店できる店作りを目指し、「ユニバーサルサービス講座」と銘打ったプロジェクトを社内で立ち上げた。講座では認知症や障害などについて学ぶ。社員は車イスに乗って店内を巡回するなど、障害者や高齢者の目線に立った店作りを実践。駐車場へのスロープ設置や自販機の機種を変更するなど、従業員の提案による改善を進めている。

 パチンコ店での遊技が生活に定着している高齢者も多い。グループは、介護家族の負担を減らし、認知症の高齢者の居場所となり得る店舗を目指している。田中主任は「認知症の理解を持った従業員がいる施設で、誰でも居心地の良い店作りに励みたい」とグループの方針を示す。

 ■新たな取り組みで利用者に効果
 認知症対応型のデイサービスなどを運営する「小さな家・千歳」(豊橋市)では、昨年秋から利用者が施設の玄関先に花を植える作業を始めた。取り組みを企画した同社の介護職員、櫻井麻衣子さんは「作業をすることで、利用者が日ごろ見せない表情や知識を見ることができた」と振り返る。

 農業経験のある人は、土づくりや肥料の配分の方法などを得意げに披露。福祉体験に来ていた中学生には、孫の世話をするように優しげなまなざしを向けて指導する姿がみられた。

 同社は、利用者の社会参加を促すために花植え作業を企画。季節ごとに花植えを継続し、今年は施設近くの幸公園で清掃する「530運動」にも取り組んでいく予定。櫻井さんは「認知症の人は何もできない訳ではない。外で活動する姿を市民に見てもらい、正しい理解を深めていきたい」と語る。

 同社の運営統括責任者、三浦千歳さんは「認知症になることを、恥だと感じている家族も多い」と明かす。徘徊(はいかい)や周囲とのトラブルなどを恐れて室内に閉じこもり、症状が悪化する世帯も多い。三浦さんは「家族だけで行う介護には限界がある。さらに高齢化が進む将来のためにも、認知症が受け入れられる社会の雰囲気を高めたい」と使命感を語る。

 ■介護家族の思い
 認知症高齢者に居場所ができると、家族の負担も軽減される。

 「認知症の人には、良い気持ちも軽薄な思いも伝わっている」と話すのは豊橋市の80代男性。10年ほど前に妻が認知症となり、自宅での介護生活を余儀なくされた。住宅前の路上を1日に何度も清掃するなど同じ行動を繰り返し、県境まで徘徊して保護されたこともあった。外出する際、男性が付き添うと「付いてくるな」と拒絶し、「実家」や「お寺」などに歩いて向かおうとするという。

 夫婦は60年以上にわたって連れ添ってきた。仕事柄、転勤を繰り返した男性は必ず勤務地に妻を連れて居住。妻は明るい性格で、見知らぬ土地でも一から人間関係を築き、夫婦は二人三脚で人生を切り開いてきた。苦楽を共にした2人の間に生まれる苦悩。介護について男性は「プライドがあり、偽りの思いは見透かされる。優しく接すれば良い訳ではないから難しい」と吐露する。

 同市の70代女性は夫が認知症となり、目の離せない生活が続いていた。夫の症状に良い変化が訪れたのは数カ月前。市内の喫茶店へ週に数回訪れる日々を過ごすと、ふさぎ込みがちだった夫が明るくなり、女性が行う介護の負担も軽くなったという。

 店は、経営者が認知症に対する理解が深く、常連客も症状を理解した上で夫を快く受け入れている。女性は「以前は迷惑をかけないよう、買い物や食事に行く時は場所を選んでいた。あの喫茶店にいる時だけは安心。自分の時間も持てるようになった」とほほ笑む。わずかな期間で起きた劇的な変化。女性は「認知症の人も受け入れられる居場所づくりが何よりも重要」と寛容性のある社会の実現を願っている。

花植えの作業に励む利用者ら

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