皮付き肉をトラに給餌/東栄町「命のリレーPJ」が納入
2025/05/14
上野動物園はトラへのシカ肉給餌をインターネット動画でも紹介する(東京動物園協会提供)
奥三河で駆除されるシカの資源活用に取り組む東栄町の「野生動物命のリレーPJ」(リレーPJ)が、東京の上野動物園に猛獣用の餌となるシカ肉の納入を始めた。同動物園は昨年12月と今年1月、皮付きの肉をトラに与えるところを公開するイベントを開催しており、この時もリレーPJのシカ肉を使用した。
毛皮や骨が付いたままの肉を餌とする手法は屠体給餌(とたいきゅうじ)と呼ばれ、豊橋総合動植物公園(のんほいパーク)などが動物福祉の観点から実践している。日本を代表する上野動物園も採用したことで、屠体給餌やリレーPJの活動に弾みがつきそうだ。
リレーPJは2021年、前東栄町長の尾林克時さん(75)らが会社として設立。奥三河でわなにかかったシカを有償で引き取り、洗浄や加熱殺菌をして、皮や骨、ひづめが付いたままの肉を動物園に販売する。
尾林さんによると、今ではのんほいパークなど数カ所の施設へ定期的に納入しており、年間300頭余りを加工。上野動物園からは昨年になって注文が入り、今年は定期的に発送する。
■被害は年70億円
動物園のライオンやトラは、自然環境に近い状態の餌を与えることで、野生の獲物を狩った時と似た採食行動を見せる。ストレス軽減や健康維持に役立つほか、来園者に本来に近い姿を見てもらう機会となる。
皮付き肉を与える効果について、上野動物園は給餌イベントを紹介したインターネット上の記事で「野生のトラでも見られるような『毛皮を剥ぐ』『骨から肉を引きちぎる』などの行動を引き出すことができる」と評価している。
一方、野生のシカは山間部で数が増え、山林や畑が荒らされる食害が深刻だ。農林水産省の資料によると、シカによる農林水産被害は年間70億円(23年度)に達する。
捕獲される数も年間72万頭(同年度)に上るが、このうちジビエ料理やペットフードなどに利用される割合は2割弱。大半は埋却処分されており、さらなる資源活用が求められる。
尾林さんは「上野動物園で使われることは注目度が高い。これをきっかけに、駆除されたシカの活用がもっと広がってほしい」と話している。