この人に聞く 

フェニックスをまちの誇りに

【第7回】元晶煜・愛知大学地域政策学部教授

2026/07/20

元晶煜

 プロスポーツは産業規模こそ大きくないが、地域社会に与える影響力は群を抜く。そんな確信を胸に、スポーツ経営学の視点から東三河の未来を問い続ける研究者がいる。元晶煜・愛知大学地域政策学部教授(53)だ。韓国・大邱市出身。順天堂大学大学院でスポーツ健康科学の博士号を取得後、2011年から現職に就く。豊橋市の各種審議会委員を歴任し、地域とスポーツの関係を実証的に追い続けてきた。

 ■スポーツが満たす、心と地域
 元教授が今、力を入れるテーマが「ウェルビーイングとプロスポーツの可能性」だ。ウェルビーイングを世界保健機関(WHO)の定義「身体的・精神的・社会的に良好な状態」にとどめず、心が満たされ、地域社会とのつながりの中で良く生きている状態と広くとらえる。スポーツはその実現に欠かせない手段だという。快感や喜び、地域への誇りといった心の充足を、スポーツは観戦するだけでも引き起こす。プロスポーツを単なる娯楽ではなく「地域の財産」として活用すべきだと力説する。

 ■勝利だけでは、足が向かない
 元教授は最近、愛知大学地域政策センターの調査として、プロスポーツファン300人を対象とした大規模調査の結果をまとめた。プロ野球が57%、Jリーグが26%、Bリーグが17%と幅広い層を対象に、観戦意図を左右する要因を統計的に分析した。

 明らかになったのは、勝利への期待だけでは人はアリーナまで足を運ばないという事実だ。娯楽の欲求や友人・知人との社会的交流といった「プッシュ要因」、チアリーダーやマスコット、飲食といった付加サービスを含む「プル要因」が、ともに観戦意図を高める。一方、チケット価格やアクセスの不便さなどの「制約要因」がそれを妨げる。

 さらに注目すべきは「チーム・アイデンティフィケーション」の媒介効果だ。ファンがチームと自分自身を同一視する度合いが強いほど、制約を乗り越えて会場に向かう力が生まれることを、元教授は数式で実証した。「フェニックスが負けて悔しいと感じる人が、東三河にはまだ少ない。チームがよその存在になっている」と率直に語る。

 ■街と歩く、新アリーナの可能性
 では、どうすればフェニックスと東三河は本当の意味で一つになれるのか。元教授はいくつかの手だてを提案する。東三河ゆかりの選手を積極的に起用すること、勝利時に商店街が連動したイベントを仕掛けること、地元企業や市民にクラブの株主・オーナーになってもらうこと。FCバルセロナが市民会員「ソシオ」の会費で運営されるように、当事者意識がアイデンティフィケーションを育む―と説く。

 建設が予定される新アリーナへの期待も大きい。「豊橋駅から徒歩圏内という立地を最大限に生かしてほしい」と訴える。広い駐車場からシャトルバスで直行するのではなく、駅からアリーナまでの道のりを商店街や大学と連携して楽しく歩ける空間にすることが、街のにぎわいと経済効果につながる。データに裏付けられた提言は、研究室を飛び出し、この街の未来を照らそうとしている。
                  ※次回は27日付掲載予定。

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