この人に聞く 

「人で勝負する金庫に」

【第10回】岡本聡哉・蒲郡信用金庫理事長

2026/08/10

 蒲郡信用金庫は今年春、74人の新卒職員を採用した。全職員約800人の1割に相当する規模で、地域金融機関としては異例の積極採用となる。理事長就任3年目を迎えた岡本聡哉理事長(59)が仕掛けたこの採用戦略の背景には、就任前から抱いていた強い危機感がある。

 岡本氏は理事長就任前、経営企画部で2年間、同金庫の従業員の年齢構成を分析した。若手層の裾野は広いが厚みは薄く、一方で上の世代が厚みを増す「カタカナのエ」のような形をしており、このまま推移すれば数年後には逆T字形になりかねないと見た。44カ店の営業基盤を支える人材が先細れば経営そのものが立ち行かなくなる。そう判断し、副理事長とともに採用と育成を経営の中心に据える方針を固めた。

 2028年度の創立80周年に向け、今年度は「地域社会の未来を地域の皆様と共に創る」との新たな経営ビジョンを掲げた。岡本氏は就任以来、「人で勝負する信用金庫になる」と繰り返し語ってきた。人を資本と捉え、優秀な人材を育み続けることが、地域の顧客に真に寄り添う伴走支援者になる道だとの考えからだ。

 人事制度も刷新した。初級管理者の登用試験を受けられるまでの期間を、従来の最短5年から3年に短縮し、評価をクリアした職員から昇格できる仕組みに切り替えた。制度改定の翌年には最短で昇格する職員が現れるなど、改革の手応えを感じている。

 就任2年目には住宅ローンを戦略商品として位置づけ、団体信用生命保険を充実させた商品パッケージを設計し、若手職員向けにはロールプレイング研修も展開した。この結果、1年間で貸出金が269億円、預金が288億円増加し、増えた預金に対する融資の割合を示す限界預貸率は94%に達した。令和7年度はしんきん保証基金住宅ローンの取扱件数では全国の信用金庫の中で最多となり、ウェブローンの申込件数も年間1000件程度から約3000件へと3倍に伸びた。窓口担当の女性職員にも成果を意識する動きが広がり、組織全体に相乗効果が生まれているという。

 今年度迎えた74人の新入職員に対しては、4、5月の2カ月間を研修に充て、残る10カ月のうち9カ月は窓口・融資・営業を3カ月ごとに経験させる育成プログラムを組んだ。部店長会議では支店長に対し、新入職員を「宝」として育てるよう直接伝えた。6月には定期積金の集金業務を廃止し、浮いた時間を支店長や役席者による若手との日々の面談比重を高める体制に改めた。

 岡本氏は、蒲郡信用金庫をあらゆる面で時代が要請する金融機関とすることが自らのミッションだと語る。前理事長(現会長)が整備し拡充してきた店舗網に、それにふさわしい人財を満たしていくことが、10年、20年先の金庫の力になるとの考えだ。人財育成を軸に据えた経営が実を結ぶのには、それ相応の時間がかかるのは覚悟のうえで、目の前の職員一人ひとりの育成に力を注いでいる。
                      ※次回は16日付掲載予定。

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