この人に聞く 

「あと20年、幸せな着地へ」

【第15回】黒野有一郎・大豊協同組合代表理事

2026/09/15

黒野有一郎・大豊協同組合代表理事

 豊橋駅前の南、かつて中心部を流れていた用水路を暗渠にして覆うように3つの商店街15棟が連なる「水上ビル」は、戦後復興期の1964年から67年にかけて建てられた全国でも珍しい商店街ビルだ。このうち大豊ビル・大豊商店街をまとめるのが、黒野有一郎大豊協同組合代表理事(59)である。豊橋市生まれ、大学で建築を学び、現在は一級建築士事務所「建築クロノ」代表として、水上ビルの店舗リノベーションにも数多く携わってきた。50周年の1年前、代表理事の任を引き継ぎ、以来12年になる。

 大豊ビルの土地は豊橋市の所有で、大豊協同組合が一括で借り上げている。建物(上物)だけを個人が所有するこの仕組みのもと、組合員のほとんどはかつて商売をしていた顔見知りの間柄だ。高齢化に伴う相続や売却が増えても、新しい所有者が組合に事前に相談してくれる関係が保たれており、空き店舗を店子とつなぐ体制が次の世代にも引き継がれているという。

 大豊商店街が50周年を迎える1年前、黒野氏は「あと20年は生き延びる」と宣言した。築50年を超えたコンクリート造の建物に、周囲から「そろそろ解体では」との噂が立つのを断つとともに、当時10数店舗あったシャッター店舗の店主に営業継続や承継を促す狙いがあった。建築工学的には躯体があと30年は持つと踏みながらも、30年では遠すぎて実感が湧かず、10年では焦らせてしまうと考え、あえて20年という期間を選んだという。以来、空き店舗を出店希望者とつなぐ「雨の日商店街」などの取り組みを重ね、この10年でシャッター店舗はほぼなくなった。

 今年春、その歩みを後押しする出来事があった。近代建築の記録・保存・活用に取り組む国際組織の日本支部・DOCOMOMO Japanが、水上ビルを歴史的・文化的価値のある建築として選定し、「303」の登録番号と共に「選定書」が届いた。突然の知らせに、「青天の霹靂だった」と振り返る。きっかけの一つは、戦後の闇市の変遷を研究する工学院大学の初田香成教授の来訪だった。水路の上に建つ商店街を全国で調査してきた初田氏は、コンクリート造で現存する水路上商店街のなかで、沖縄・那覇の「ガーブ川水上店舗」と水上ビルを「双璧」だとし、那覇の方が1年早く建てられたことも教えてくれたという。感覚的なノスタルジーで語られてきた建物の価値を第三者の目線で裏付けられたことで、20年という見通しを語りやすくなった。将来的な登録有形文化財への登録も選択肢として残しつつ、まずは建物を元気に使い続けることを優先する考えだ。

 黒野氏は今、限られた時間の使い方を具体的に描き始めている。3つの商店街ビルのうち、耐震への懸念から愛知県が入居者募集を止めている大手ビル上階の県営住宅跡を、アートイベントの会場などとして開放できないか、県への働きかけを模索する構想もその一つだ。「20年あれば、もう一度大きな企画を狙える」。使い切った末に朽ちるにまかせるのではなく、美しく迎える終着点を、黒野氏はロードマップとして描こうとしている。

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