22歳大学生が祖父母住む豊根村でコーヒー販売
2025/06/25
コーヒーを手渡す熊谷さん(とみやま来富館で)
「1人でも多く富山(とみやま)に来てもらいたい」―。豊橋市の大学生が、自身のルーツがある豊根村富山地区(旧富山村)でコーヒーの露店販売を始めた。自然豊かで人々が温かな地区に愛着を感じているが、すっかり過疎が進んでしまった。立ち寄る人を増やすことで未来を少しずつ変えられないかと考えている。
名古屋外国語大学4年の熊谷琴美さん(22)は、富山に母の実家があり、祖父母が暮らす。
小さな頃から年に何度も来て、川遊びを楽しんだり、畑仕事を手伝ったり。豊橋の自宅からは車で片道2時間半かかるが、今でも「子供のように無邪気でいられる場所」だ。
しかし、地区の人口は50人を切った。「今残る世代がいなくなったら、当たり前にあった富山の暮らしがなくなってしまう」
何かしたいという気持ちから、1月には伝統行事「御神楽(みかぐら)祭り」の会場で、親族とともに軽食などの出店を運営した。盛り上げに一役買ったものの、祭りは担い手不足のため今年を最後に休止となった。
露店の営業許可を取り、コーヒー販売を始めたのは5月のこと。地区の宿泊施設「とみやま来富館」の前庭などにテントやテーブルを持ち込み、既に7回店を出した。
出店情報をインスタグラムで流すと、1日10人前後が立ち寄るそうだ。商売として成り立つわけではないが、地区の人口と比べるとそれなりの人数と言えるだろう。
記者が取材した22日もドライブ客らが訪れた。新城市の会社員、柴田健司さん(39)は「コーヒーが好きなのでインスタグラムで見て気になっていた。富山に来たのは初めて。山や沢の水がすごくきれいですね」と話した。
若者の挑戦を住民はどう見ているか。来富館の施設内で食堂を営む安井敏博さん(52)は「地区には店がうち1軒しかない中、同志が増えてうれしい。『富山に来ても何もない』と言われたくないですから」と歓迎する。
その熊谷さんは来春の就職が決まっている。県外勤務になりそうだが、その後も月1回は販売を続けていくつもりだ。
「自分にできるのは少しのことかもしれないけれど、富山が好きという気持ちを発信していきたい。週末に来てくれる人が増えれば、移住につながるかもしれない」。何かせずにはいられないという思いが伝わってきた。