帝国主義の光と影⑤

軍国主義に翻弄されたタバコ産業/豊橋の地場産業に発展もたらす歩兵第18連隊設置/第一次世界大戦で物価高・豊橋でも起きた米騒動

2025/08/19

包装デザインにも凝った原田万久煙草「吉田あかこ」(豊橋市美術博物館提供)

 歩兵第18連隊の設置は、豊橋の地場産業に発展をもたらした。その代表格がタバコ産業だ。

 もともと江戸時代に生まれた「吉田煙草」が有名で、全国でも有数の生産地だった北設楽屋や飯田を結ぶ信州中馬や豊川(とよがわ)舟運などの交通が発展していたことから、吉田宿の東海道筋には数十軒の製造業者があった。

 吉田城下町・田町の製造業者に生まれた原田万久(まんきゅう)は、「吉田あかこ」や「国竹」といった代表的な銘柄をはじめ、14種類もの紙巻煙草を製造した。原田の工場で作られるタバコは「万久煙草」とも呼ばれ、品質や包装デザインに優れ、陸軍兵士らにも好まれた人気商品だった。

 しかし、日本がロシアとの関係が悪化すると、政府は戦費を賄うため増税の一環で煙草専売法を制定。民間の製造業者は廃業を余儀なくされた。豊橋でも業者による反対運動が起きたが、政府の方針に理解を示す市民の声が高まり、日露戦争が始まった1904年にはタバコ製造が国営化され、豊橋の業者は完全に姿を消してしまった。

 大正に入ると第一次世界大戦が勃発。日本は連合国への軍需物資の輸出などが増え、物価が上昇した。米の価格も急騰し、1918年に富山県の漁村の主婦たちの押しかけを機に全国的に「米騒動」が起きた。

 豊橋でもこの年の8月12日夜、大手通や萱町通で数人の男らが米価格について演説を始め、これにあおられた数百人が松葉町にあった豊橋米穀取引所理事が営む店舗を襲撃。在庫米を一升22銭で売る約束を取り付けた。群衆はほかの精米所や米屋にも押しかけ、警官が名古屋の米騒動鎮圧に人手を取られていたことで警備が手薄だったこともあり、第18連隊の兵士らも出動する事態となり、混乱はようやく14日未明に収束した。

(つづく)

米騒動が起きたころの萱町通(豊橋市発行「とよはしの歴史」より)

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