自然栽培 夏みかん本格出荷

田原/名古屋市の元教員・鈴木靖之さん農業人としての第二の人生

2025/08/19

自然農法で夏みかんの栽培に取り組む鈴木さん(田原市高松町で)

 農家の担い手にならなかったせめてもの罪滅ぼしに―。名古屋市の元教員の鈴木靖之さん(73)が、古里の田原市高松町で自然農法による夏みかん栽培に取り組み、今春から本格的に出荷を始めた。退職後、10年以上も田原に通い、みかん畑を整備し育てた夏みかんの商標登録も取った。「第二の人生」を「農業人」として打ち込んでいる。

農家の長男 務め果たせず「罪滅ぼしに」

■スーパー注目
 鈴木さんが自然農法で夏みかん栽培に挑戦するきっかけは、旧赤羽根町高松の畜産や野菜、稲作などを営む農家の長男に生まれ、大学卒業後は名古屋市の高校教員になり、長男として務めを果たせなかったことにある。

 2001年に亡くなった父、松雄さんが、大切に育ててきた夏みかんを継承することで「その償いになれば」。退職後の14年から古里通いを続け、みかん畑の手入れを始めた。幸いなことにこの十数年間、親戚が収穫を続けていたため木は生き残っていた。

 みかん畑は約1・6ヘクタール。通称尾村山(標高約190メートル)の麓に3種類の夏みかん約130本が植えられている。実家に泊まり、正月にはみかんの摘果、3月からの収穫期に合わせて木のせん定を行う。周りを囲むサンゴジュやマキの枝を切って日当たりや風通しを良くし、雑草を刈る。風で落ちたサンゴジュの実から芽が伸びると刈り取り、その腐葉土で夏みかんを育てる。肥料を使わないという。

 収穫した夏みかんを当初、知人に提供していた。加えて高校時代の友人を通じて関心を寄せた地元を中心にスーパーを経営する「渥美フーズ」が、20年から夏みかんを仕入れ、チーズケーキやジュースなどにして商品化した。昨年、愛媛県で開かれた「ダルメインWorldマーマレードアワード&フェスティバルinJapan」に出品したジャムが銀賞に輝いた。

 今春にはこの渥美フーズが運営する醸造所からクラフトビールの原料などとして夏みかんの注文が舞い込み、1トン程度を出荷した。申請していた「ぬくとんばら甘夏」の商標登録も認められた。

■父が信念貫く
 松雄さんは1960年ごろ、みかん栽培を取り入れた。92年のオレンジの自由化で打撃を受け他の農家はみかんを見切り、やめていった。その後、その危機を乗り越えようと夏みかんに切り替えた。家族から「負の遺産」とお荷物扱いされたが「渥美半島には必要」と信念を貫いた。新たな時代を迎え評価された形だ。

 鈴木さんは「夏みかんに関心が集まり、少しは父に恩返しができたかなあ」とホッとした様子。「元気な限り夏みかんづくりに励み、収穫をアップさせ出荷量を増やすことが、これからの私の務めと思う」と意欲を燃やす。

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