旧田口線最後の「現役」施設/JR飯田線本長篠駅で工事開始/新城
2025/04/25
本長篠駅の魅力を語る石井さん㊨。駅舎と飯田線の線路の間に田口線のレールが敷かれていた(新城市で)
JR東海が3月に建て替えを発表した新城市長篠の飯田線・本長篠駅は、かつて奥三河を南北に走っていた豊橋鉄道田口線の起点でもあった。当時の駅舎は今なお使われ、構内に田口線のホームや線路跡が残る。廃線ファンに人気のスポットだが、一連の工事でいよいよ見納めとなる。
1923年、鳳来寺鉄道の「鳳来寺」駅として開設された。その6年後に田口鉄道(後の田口線)が開業して「鳳来寺口」に改称した。
今の名称に変わったのは、鳳来寺鉄道などが国有化され、飯田線になったとき。その後、68年に田口線が廃止されている。
鳳来町誌などで過去の写真を見ると、駅開設時は今とは別の位置に建物がある。現在の駅舎がいつ建ったかはっきりしなかったが、64年の写真には同じ形の建物とホームが写っていた。
田口線のことに詳しく、遺構巡りのガイドも務める石井峻人さん(40)=豊根村=によると、田口線が営業していた当時、駅前には飲み屋があった。
今や静かな住宅街だが、飯田線から乗り換える間に一杯やっていく人たちがいたわけだ。
つい3年ほど前までは、構内に田口線のレールが敷かれたままだった。そこにJRの黄色い保線車両が止まっていることもあったという。
石井さんは、建て替えについて「田口線の鉄道施設が現役で使われているのは、本長篠駅だけ。新しくなるのは悪くないけれど、何とも言えない寂しさを感じる」と話す。
この3月末、豊橋市の50代男性が本長篠駅を熱心に撮影していた。設楽町の田口高校出身で、在学時、寮から自宅へ帰るのに駅を使ったそうだ。
男性は「待ち時間を過ごした駅舎がなくなる前に撮りに来た。田口線のレールがあったことも覚えている」と懐かしんだ。
待合室の掲示によれば、駅舎撤去と新設の工事期間は今月下旬~来年5月の予定。22日に訪ねると、待合室のベンチが一部外されるなど、作業がもう始まっていた。
田口鉄道として1929年に開業。32年に設楽町の三河田口駅までつながった。延長は22キロ余り。
川沿いや山間部を通したため橋梁は17本、トンネルは24本に上った。廃線から60年近いが、遺構を訪れるファンが絶えない。