この人に聞く 

「使うな、ではなく流すな」

第5回/井上隆信・豊橋技術科学大学建築・都市システム学系教授㊤

2026/07/06

井上隆信教授

 日本の海岸に最も多く漂着するプラスチックゴミは、ペットボトルでもストローでもない。カキ養殖に使われる小型プラスチックパイプや漁業用ロープだ―。環境省が毎年公表する海岸漂着ゴミ調査はそう示しており、マスメディアが伝えてきたイメージとは大きな開きがある。海洋プラスチック問題の「常識」を科学的データで問い直し、感情論ではなく事実に基づく対策の必要性を説き続ける研究者がいる。豊橋技術科学大学建築・都市システム学系の井上隆信教授だ。

 北海道大学を卒業後、国立環境研究所(環境省所管)で研究に従事し、2004年から現職に就く。愛知県環境審議会委員や中央環境審議会専門委員を歴任し、環境省所管のプラスチック問題に関する大型研究プロジェクトでは農地からの流出実態を定量化するサブテーマの一部を担当。インドネシアでの現地調査も継続的に行っている。

 ■漁業ゴミが圧倒的に多い
 環境省が80地点の海岸を対象に実施する漂着ゴミ調査(2024年度)によると、個数ベースの上位を占めるのはカキ養殖用の「まめ菅」(小型プラスチックパイプ)、プラスチックロープ・ひも、ペットボトルキャップの順だ。瀬戸内海では漁業関連プラスチックが漂着ゴミ全体の50%以上を占める地点もある。愛知・静岡周辺の沿岸ではポリ袋やボトルキャップが目立つなど、地域の産業構造が漂着物の内容を色濃く反映している。

 漂着ペットボトルの起源についても「外国からの流入が主因」という認識は必ずしも正確ではないと指摘する。ラベルによる識別調査では、外国に近い対馬などの離島を除き、多くの沿岸で漂着ペットボトルの大半が日本製と確認されている。「北の海域や内海では、漂着するペットボトルのほとんどが日本製だ。われわれが捨てたものが、われわれのもとに戻ってくる」と語る。

 ■真の発生源は繊維とタイヤだ
 近年、健康リスクとして注目されるマイクロプラスチック(直径5㍉以下)についても、発生源の正確な把握が対策の前提だと強調する。国際自然保護連合(IUCN)などの公表データによれば、一次的マイクロプラスチックの最大発生源は合成繊維(約35%)で、洗濯のたびに繊維くずが排水に混入する。続いてタイヤの摩耗(約28%)、都市の塵(約24%)、横断歩道の白線や車線標示に使われる道路塗料(約7%)が占める。

 「マイクロプラスチックの流出を本気で削減しようとすれば、合成繊維の衣服を着るな、車に乗るなということになってしまう」と言い切る。「ストローを紙製に替える」といった取り組みが問題の本質的な解決にはつながらないことを、データが示している。

 人体への影響については、50㌨㍍程度の微粒子が脳内に蓄積するとの研究成果も発表されているが、それが具体的な疾患につながるかどうかはいまだ不明だ。「影響が懸念される」という表現にとどまるマスメディアの報道について、同教授は「影響があると言えないのは、科学的に分かっていないからだ」と淡々と解説する。農業分野では、問題視されてきた水田の被覆肥料カプセル(3~5㍉)が生分解性素材への置き換えを進めており、解決の見通しは立っているという。
                     ※次回は15日付掲載予定。

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