この人に聞く 

「音楽で、豊橋を取り返す」

第4回/山田智和 株式会社Go2Entertainment代表

2026/06/29

山田智和 株式会社Go2Entertainment代表

 豊橋市の音楽シーンを支えてきた楽器店「名豊ミュージック」が閉店したとき、山田智和氏は帰りの新幹線でひとり涙した。シャッターに貼られていたのは「名豊ミュージックが力尽きました」という張り紙。義父が営んできた店の終わりだった。「音楽が負けてしまったような悔しさがあった」。その悔しさが今、豊橋市制120周年記念ソングという形で結実しようとしている。

 山田智和・株式会社Go2Entertainment代表は香川県出身の作詞家・作曲家だ。29歳でデビューし、以来18年間、乃木坂46やAKB48などのアイドルグループ、アイドルマスター・刀剣乱舞といったアニメ作品に楽曲を提供してきた。昨年1月、所属事務所を事業承継し代表に就いた。

 ◆1000曲のコンペ、廃業するクリエイターたち
 メジャーシーンの制作は苦しい競争の連続だ。秋元康氏の楽曲コンペには「1000曲ぐらい集まっている」という現実を、山田氏は忘年会の席で直接聞いた。何度採用されてもゼロからの戦いが始まり、フィードバックもない。自身もその消耗の果てにアルコール依存に陥り、急性膵炎(すいえん)で救急搬送された。入院を機にやめることができたが、立ち直ったとき考えが一変した。「楽曲で勝つことしか考えてこなかったけれど、周りのクリエイターを救うことに尽力しなければいけない」。代表就任後に掲げた「全てにテーマソングを」というスローガンの原点だ。

 ◆音楽を、地域活性化のツールに
 代表就任後は「サウンドマーケティング」の普及に力を入れる。企業や自治体の思いをオリジナルソングに乗せて発信する取り組みだ。女子野球漫画を展開するわかさ生活にテーマソングを提案したところ、TikTokでの公開から2カ月で50万回再生を突破し、漫画の売り上げが7倍に伸びた。香川県オールトヨタとのCSR活動では、地元小学校の合唱部とトヨタ職員が一緒に歌い、テレビ番組で放送された。「音楽を使って企業と地域の接点を生み出すことができる」と語る。

 ◆父の無念を、120周年のうたに
 山田氏が今、全額自腹で取り組むのが豊橋市制120周年記念ソングのプロジェクトだ。市から「一切金は出せない」と言われても「全部自腹でやってやる」と覚悟を決めて進めている。豊橋出身の声優が歌い、市民から集めた動画や写真でミュージックビデオを制作する計画だ。

 「ボロボロ泣けてきた。いつか義父の代わりに、音楽で豊橋を盛り上げる機会をもらえたらとずっと思っていた」。名豊ミュージックの閉店から抱き続けた願いが、ようやく形になろうとしている。
                     ※次回は7月6日付掲載予定。

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