この人に聞く
【第11回】青木宏将・東愛知日産 代表取締役
2026/08/17

自動車整備士の不足が全国的な課題として浮上する中、東三河地域で長年にわたり整備士を養成してきた愛知工科大学が、18歳人口の減少を受けて来年度から同課程の募集を停止する。地域の担い手育成に影を落とすこの現実を、東愛知日産(豊橋市)代表取締役の青木宏将氏は、一企業の問題にとどめず地域全体で考えるべき課題だと受け止めている。
■なぜ戻ったのか
地元・豊橋を離れ上京した青木氏は、大学卒業後に総合広告代理店ADKに入社し、10年間にわたって営業の最前線で腕を磨いた。「こっちに戻る気はなかった」と振り返るが、転機は社会人8、9年目のことだ。父が病気で倒れ、家業の継承を求められた。当初は断った。ちょうど会社で面白いプロジェクトを任されるようになり、仕事の手応えが膨らみ始めていた時期だったからだ。
思い直したのは、マーケティングの本質への問いが深まったことがきっかけだった。広告を通じて一過性のトレンドを作り続けることへの疑問が積み重なり、顧客の中長期的な価値を本当に生み出せているのかという葛藤が生まれた。そこで目が向いたのが「車」という商材の持つ意味だった。「大切な人と乗り込んで出かけて、喜怒哀楽を共にする動く部屋みたいなイメージがあって、それを提案するって、その方の未来像に貢献できるのかなと思って」。その気づきが入社を決めた動機になった。36歳でUターン入社した後も、別の事業での起業経験を踏まえながら7年を経て、腰を据えて東愛知日産の経営に向き合うようになった。
■整備士不足を地域の課題に
故郷に戻って現場に立ち、痛感したのが整備士の担い手不足だ。全国的に整備士の高齢化と若年層の参入減が続く中、愛知工科大学の廃課程は養成ルートがさらに細ることを意味する。このままでは地域の自動車整備を支える人材が慢性的に不足するという危機感を、青木氏は強く抱く。
整備士を確保しようと、学費支援に取り組む企業は東愛知日産以外にも存在する。同社でも企業奨学金制度を設け、浜松工科・愛知工科の各1年生1人ずつ計2人の学生を在学中から支援し、卒業後の入社を見据えて育成に乗り出している。ただ、青木氏が見据えるのは個社の採用強化にとどまらない。自社だけが担い手を確保すれば済む問題ではなく、業界や地域が連携して若い世代に整備士という職業の魅力を伝え、工業・整備の道を選ぶ若者を地域全体で増やしていくことが根本的な解決への道だと訴える。進路選択に保護者の意見が大きく影響することを踏まえれば、整備士の魅力を親子ともに届ける場を地域で作ることが、その入り口になるとも語った。
東京で磨いた問題発見の視点と、地元で積み重ねた現場感覚。その両輪が、今の青木氏を動かしている。整備士が一人もいなくなった街で、車は走り続けることができない。車を売ることの先にある地域の課題に向き合うその姿勢は、静かに進む危機への早い警鐘でもある。
※次回は24日付掲載予定。