この人に聞く
【第9回】鈴木鉄也・豊橋ハートセンター事務長
2026/08/03

鈴木鉄也さん
「病気を治すだけの時代は、もう終わり」―。豊橋ハートセンターが2029年の開業を目指す新拠点「HEART PARK TOYOHASHI」が掲げるコピーだ。豊橋市王ヶ崎町字八幡東付近の約4万平方㍍(東京ドームの約0・85倍)の敷地に、医療・食・遊びを統合した「日本初」の健康テーマパークを築く。事務長の鈴木鉄也氏(46)は元々、東京で広告やキャンペーン企画を手がけていた経歴を持つ。医療畑ではない自分が病院事務に加わり、「何で貢献できるのか」と模索し続けてきた末に、前人未到のプロジェクトの中枢を担っている。
■移転の原点と理念の転換
発端は南海トラフ巨大地震の浸水リスクによる増築計画の中止だ。その現実を機に、院長が繰り返してきた「急性期医療だけをやっていてはいけない」という問題意識が前景に出た。病院理念を見直す中で「地域の皆様の命と暮らしを守る」という言葉が生まれ、予防・未病の領域にも踏み込む医療機関への意識転換が始まった。21年秋には職員向けアイデアコンテストを実施、394件のアイデアをもとにワークショップを重ね、「病院のイメージを払拭し、みんなが自然と健康になる場所に」という方向性を固めた。
■医・食・遊が循環する拠点へ
プロジェクトの核は「医」「食」「遊」という三つの軸が連動するサイクルだ。「医」は医療データを通じた気づきと学び、「食」は農園から食卓へとつながる命の源、「遊」は体を動かしコミュニティに参加する喜びを指す。「病気になったから行くところではなく、健全な状態で長く楽しく生きるための拠点」と鈴木氏は言い切る。併設するレストラン、フィットネス施設、ヨガパーク、サウナ、ランニングコース、リハビリガーデンを外部に委ねず自前で運営することへのこだわりは、「ノウハウが貴重な自分たちの財産だから」に尽きる。蓄積した知見を生かし、医療機関や行政を通じて豊橋発のウェルビーイングモデルを全国に広める構想だ。
■農と食は先行、老化も治す時代へ
新拠点の開業前から農薬・化学肥料不使用の「ハートファーム」(貸農園・リハビリ農園)と通所介護施設「ハートケア」がすでに稼働している。農園での野菜づくりを通じた人と人との交わりが言葉以上の健康効果をもたらすという実感が、新拠点の設計思想にも根を下ろしている。こうした取り組みの延長線上に、8月11日(山の日・祝日)にアイプラザ豊橋で開かれる第27回「ハートの日」がある。今年は「あなたの寿命は、自分で決められる」をテーマに、老化の測定と治療を研究する第一人者らを招いた講演会と医療体験ブースを予定する(入場無料)。社会保険料の増大や健康寿命の短縮が社会課題として重くのしかかる中、患者・従業員・地域住民それぞれにとっての健康をひとつの拠点で支えるモデルを豊橋から発信する。「こんなことは一生に一度のことなので、必ずやり切りたい」。まだ世界のどこにもない健康のかたちを生み出す挑戦が、来年の着工へ向けカウントダウンに入った。
※次回は10日付掲載予定。